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腰痛の従業員に「重い物を持たないで」。代わりがいない職場はどうする?

台車はあるのに腰がつらい、軽い作業へ替えても中腰が続く。人手の少ない卸売会社と小さな工場の架空事例から、腰痛のある従業員への対応、作業の減らし方、医師に伝える情報を解説します。

執筆: 佐賀・筑後産業保健事務所公開日:

この記事は約9分で読めます(目安)。

「腰が痛いと言うので、重い物は持たないように伝えました。でも、その人が運ばないと出荷が止まってしまいます」

人手の少ない会社では、配慮が必要だと分かっていても、すぐに代わりの担当者を置けないことがあります。事務へ異動させようにも、空いている仕事があるとは限りません。

こうしたときは、本人への注意だけで終わらせず、持ち上げる工程、置き場所、受ける仕事の量まで確認します。 安全にできる方法が整わない作業は、止める判断も必要です。

以下は、社長や現場責任者が人事・安全管理も兼ねる会社を想定した対応例です。事例・会話・記録例は説明のための架空のもので、当事務所の相談実績や実在する企業・従業員を示すものではありません。

最初に、作業を続けられる状態か確認する

相談されたら、「何kgまで持てる?」と尋ねる前に、今の痛みで安全に動けるか、どの動作が難しいかを確認します。確かめるために荷物を持たせたり、痛い動作を再現させたりする必要はありません。

腰痛に加えて足のしびれや力の入りにくさ、尿漏れなどがある場合、発熱を伴う場合、休んでも痛みが軽くならない場合や悪化が続く場合などは、作業の工夫だけで済ませず、速やかな受診につなげます。腰痛の原因はさまざまで、職場で病名を決めつけることはできません。日本整形外科学会「腰痛」

すでに受診している場合は、本人に医師からの指示を確認します。痛みで安全に行えない作業や、医師から避けるよう指示された作業を、人手不足を理由に続けさせないことが出発点です。

事例1:台車はある。でも、台車に載せるたびに腰がつらい

従業員12人の卸売会社。倉庫担当は二人ですが、午前中は一人が配達に出るため、Aさんが入荷と出荷準備を担当します。Aさんから、腰痛で受診し、重い荷物を持つ作業を控えるよう言われたと相談がありました。

この事例では、午前中に1箱約12kgの荷物を20箱扱う設定です。重さや個数は、安全に扱える基準を示すものではありません。

社長は「台車を使って」と伝えましたが、Aさんは困っています。

「運ぶときは台車を使っています。つらいのは、床の箱を台車に載せるところです。出荷先ごとに並べ直すので、一度下ろして、また載せています」

この職場で見直したいのは、台車の台数より先に、箱がどこからどこへ動くかです。厚生労働省の指針も、重さに加えて、姿勢や取扱いの頻度などを考慮するよう示しています。職場における腰痛予防対策指針・別紙Ⅰ

社長とAさんが、実物を持ち上げずに、次の流れを書き出します。

入荷品を床に置く → 台車へ載せる → 仕分けのため床へ下ろす → 出荷用の台車へ載せる

まず検討するのは、入荷時点で出荷先を確認し、途中で床へ下ろす仕分けを減らせるかという変更です。ただし、仕分けを省いて誤出荷を増やさないよう、品番・数量の確認をどこで行うかも決めます。

次に、既存の作業台や台車を使って置き場所を変えられるか確認します。高さだけを合わせても、耐荷重や安定性、通路の幅が合わなければ使えません。箱を積み重ねて仮の台にするなど、荷崩れや転倒につながる変更は避けます。

配置を変えても、安全に積み替える方法がなければ、その作業は残ります。 二人で扱う方法を検討する場合も、荷物の形や各人の状態を踏まえた確認が必要です。「二人なら必ず安全」とは考えません。

午前中に対応できない荷物については、社長が取引先と入出荷の時間や荷姿を相談します。変更できるまでの作業をAさんへ戻したり、配達から戻った同僚へ全量を上乗せしたりせず、当日受ける量も調整します。納期や保管条件の変更が難しい品物は、別の安全な搬入方法を確保できるか、費用も含めて判断します。

事例2:「軽い箱の検品」へ替えたのに、中腰が続いている

従業員9人の小さな工場で、Bさんの腰痛に配慮し、材料の運搬から製品の検品へ担当を変えました。ところが、作業台の下に置かれた箱から製品を取り出すたびに、かがむ必要がありました。

「持っている物は軽くなりました。でも、箱の底に近づくほど腰を曲げるので、午後になるとつらいです」

現場責任者も製造に入っており、一日中交代してくれる人はいません。ここでは「軽作業に替えたから対応済み」とせず、物を取る位置、手を伸ばす距離、同じ姿勢が続く時間を確認します。重い物を扱わなくても、深く腰を曲げる作業や長時間同じ姿勢を続ける作業は、腰の負担になり得ます。厚生労働省「腰痛予防対策」

この職場で検討する案は、検品する分だけを取りやすい位置へ供給し、深い箱の底から繰り返し取り出す工程を減らすことです。ただし、小分けにする人の負担も確認します。Bさん自身が床で小分けをしていたり、同僚が何度も箱を持ち上げていたりすれば、負担が別の場所に移るだけです。

供給する段階から置き方を変えられないかを確認し、難しければ、適切な高さに調整できる設備などの費用と設置条件を調べます。購入前に、作業空間や扱う物との適合性も確認します。

休憩を増やす場合は、終業時刻と生産予定も一緒に見直します。休んだ分を取り戻すために検品速度を上げたり、最後に残業したりする予定では、負担が減りません。責任者は納品予定を確認し、追加注文の受け方やその日の生産量を社長と相談します。必要な品質確認を省くことで帳尻を合わせないことも大切です。

これらは作業を検討するための例であり、変更後の仕事をBさんが行えるかは、本人の状態と医師の意見を踏まえて確認します。

一人の担当者でも、まず一枚に整理できる

専用のシステムはなくても、社長や現場責任者が本人の話を聴き、困る工程と会社側の宿題を一枚に整理することから始められます。例えば最初の10分で、すべてを解決するのではなく、次の点を記録します。時間は進め方の例であり、安全確認が10分で終わるという意味ではありません。

表は横にスクロールできます。

確認すること Aさんの職場での記録例
困っている作業 約12kgの箱20箱を扱う中で、床から台車への積み替えが繰り返される。箱の大きさや実際の回数も確認
当面止めること Aさんに、痛みで安全にできない持ち上げ作業を割り当てない
今日、会社がすること 社長が対象の入出荷予定を確認し、取引先へ時間・荷姿の変更を相談
設備と費用の確認 現場責任者が既存設備を確認。使えるものがなければ必要な機器の見積りを取り、社長が判断
他の人への影響 同僚の持ち上げ回数、担当量、残業が増えていないか確認
次の確認 次の勤務開始前に当日の担当を確認。医師の意見が届いたときや症状が変わったときにも見直す

この表は独自の記録例であり、医学的な判定表や法定の様式ではありません。受診が必要な状態なら、表を完成させる前に対応します。

既存設備の配置や手順を変える方法でも、確認や変更に勤務時間を使います。購入費がかからない場合も、本人や同僚の休憩時間・勤務時間外に作業を押し込まないようにします。

医師には、職種名より「実際にする動作」を伝える

「倉庫の仕事です」「軽作業ならあります」だけでは、医師も具体的な配慮を考えにくいことがあります。本人と一緒に、荷物の重さと大きさ、持ち上げる位置、回数、連続する時間、使える道具を整理します。

例えば、次のように相談事項をまとめます。

「床から台車へ箱を載せる作業が、午前中に繰り返しあります。途中の積み替えを減らせるか検討していますが、午前中は担当が一人です。避ける必要がある動作や作業時間、配慮が必要な期間、見直す時期を相談したいです」

本人を通じて主治医へ伝える方法もあります。産業医等に相談できる場合は、医学的な意見を実際の作業へどう反映するかも確認します。会社が主治医へ直接確認する際は、目的・確認事項を本人に説明し、同意を得て進めます。個人情報保護委員会の留意事項

「何kg以下なら誰でも安全」という一つの数字だけで、担当作業を決めないようにします。体調や作業条件を踏まえた確認が必要です。座り仕事へ替える場合も、長時間座り続けて問題ないとは限りません。

調整しても安全にできる仕事を確保できない場合は、その限界を医師等に伝え、休養の要否と今後の勤務を相談します。休業中の賃金や労働条件の扱いは、原因や契約等によって判断が異なるため、必要に応じて社労士・弁護士等へ確認します。

道具を買う前も、買った後も、作業の流れを確かめる

その日の作業を調整することと、繰り返し腰に負担がかかる工程を変えることは、両方必要です。納品時の荷姿、作業台、運搬経路など、すぐに変えられないことは、担当者と期限を決めて検討します。

設備を導入した後も、実際に使える場所にあるか、使用手順が伝わっているか、使うと納期に間に合わない予定になっていないかを確認します。

佐賀・筑後産業保健事務所では、職場巡視などの産業医業務や、50人未満の事業場の相談・面談を通じて、健康状態と仕事内容を踏まえた助言を行います。対応範囲と費用は、ご相談内容を確認してご案内します。

お問い合わせには、従業員の氏名や詳しい診断内容を記載せず、「倉庫担当が一人になる時間帯があり、腰痛に配慮した作業調整を相談したい」など、職場の状況をお知らせください。

※本記事は、公的資料・学会資料を参考に、当事務所が解説・架空事例・記録例を作成したものです。個別の診断や法的判断を示すものではありません。

参考資料

コラムは産業保健の一般的な考え方を整理したものです。公開時点の情報に基づきますが、法令の解釈や運用は一次資料と専門家の確認が必要です。個別事案の判断には使えません。

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