執筆: 佐賀・筑後産業保健事務所公開日:
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「治療を続けながら働きたいのですが、通院で有休がなくなりそうです」
こう相談されたとき、残りの有休日数を伝えるだけでは、その後の働き方が決まりません。社長や総務が人事を兼務する会社では、「ほかの人に任せると言っても、その人がいない」という悩みもあります。
最初に整理したいのは、通院に必要な時間と、本人がいない間にも本当に必要な仕事です。次の通院日に向けて、続ける仕事、後日に回せる仕事、その日は受け付けない仕事を分けます。本人の体調と医師の意見を踏まえ、休み方と仕事の量を一緒に調整します。
以下の事例・会話・記録例は説明のために作成した架空のもので、当事務所の相談実績や特定の企業・従業員を示すものではありません。
2026年4月から、治療と仕事の両立支援は事業主の努力義務に
2026年4月1日から、治療と就業の両立支援に取り組むことが事業主の努力義務となりました。相談に対応する体制や、治療を受けながら働くための措置を整えることが求められています。厚生労働省・高知労働局の案内
この改正によって、通院のための有給の特別休暇が全社に一律で設けられたわけではありません。休暇や勤務制度の内容は確認が必要です。一方、努力義務という説明だけで、安全・健康を守るための対応まで任意になるものでもありません。
会社は本人の希望を聴き、主治医や産業医等の意見、実際の業務を踏まえて対応を検討します。病気があるという理由だけで、退職や休職を前提に話を進めないことが大切です。治療と就業の両立支援指針
事例1:事務担当が一人。月2回の通院中、電話は誰が取る?
従業員12人の卸売会社で、請求書の発行と電話対応を一人で担当するAさん。月2回、平日の午後に通院し、これまでは1日単位の年休を取得していました。残りが3日となり、社長に相談しました。
「午前中は働ける日もあります。でも、休み方が分からなくて毎回1日休んでいました。このままだと、次の年休が付くまで足りません」
まず確認するのは、診察の予約時刻だけでなく、移動や待ち時間、検査・処置の予定、受診後に休養が必要かという点です。毎回、診察が終わればすぐに働けるとは限りません。
「次の通院日は、どのくらいの時間を空ける必要がありますか。午前中の勤務を希望される場合は、体調と会社の制度を確認して調整しましょう」
社長は、まずAさんの担当業務を一緒に書き出します。この会社では、請求書は翌営業日に回せる一方、当日出荷に関わる連絡には対応が必要でした。そこで、取引先と締切を確認し、通院日の午後は一般の問い合わせを留守番電話で受け、当日対応が必要な連絡だけ社長につなぐ方法を検討します。通院中のAさんには転送しません。
社長も対応できない日は、受注の締切や出荷日を取引先と前もって調整できるか確認します。顧客との約束や安全上止められない対応を洗い出し、全部を後日に回せるとは考えないことが大切です。
休暇については、社長や給与計算の担当者が、半日単位・時間単位の年休、病気休暇、勤務時間の調整を現在の規則でどう扱えるか確認します。新制度の検討と並行して、次の通院日に利用できる休み方を本人へ説明します。
時間単位の年休は、労使協定を締結することで、年5日分の範囲内で利用できる制度です。年休が別枠で5日増える制度ではありません。病気休暇は会社が自主的に設ける制度であり、有給か無給かなどの条件は会社ごとに異なります。厚生労働省の指針・休暇制度の説明
通常の年休取得と、勤務上の配慮に必要な医療情報の確認は分けて扱います。年休を申請するたびに、詳しい病名や治療内容を職場全体に伝えるよう求める運用にはしません。
また、通院のために遅く出勤できても、その分だけ夜遅くまで働く形では、本人の負担が減らないことがあります。本人の希望と医学的な意見を確認し、休暇の取得単位だけでなく、勤務の長さや終業時刻も検討してください。
事例2:治療翌日の遠方訪問がつらい。でも、代わりの営業担当がいない
小さな設備会社で、見積作成と顧客訪問を担当するBさん。治療日に休暇は取れますが、翌日に遠方訪問が入っています。その顧客への提案内容を説明できるのはBさんだけで、別の社員へすぐに引き継ぐことは難しい状況です。
「通院日は休ませてもらえています。ただ、翌朝から車で遠方へ行くのがつらい日があります。予定が決まっているので、言い出しにくいです」
この場合、確認したいのは、通院日以外の勤務です。どの作業が、いつ、どのようにつらいのかを整理します。症状が治療によるものか、どの程度の制限が必要かは、担当者が決めつけず医師に確認します。
主治医に相談する際も、「営業職です」だけでは、必要な配慮が伝わりにくいことがあります。
たとえば、次のように実際の仕事と会社が検討できる調整を伝えます。
「訪問日は往復約2時間の運転があり、客先で立って説明する時間もあります。代わりに訪問できる社員はいませんが、日程変更や、社内からの電話説明が可能か顧客と調整できます。治療後の勤務について、避けるべき作業や配慮が必要な期間を教えてください」
本人と勤務情報を整理して主治医へ伝え、就業に関する意見を得る方法は、厚生労働省の両立支援ナビでも案内されています。会社や産業医等が主治医と直接やり取りする場合は、目的や確認事項を本人に説明し、同意を得て進めます。治療と仕事の両立支援ナビ
この会社で先に検討するのは、社長が顧客に訪問日の変更を相談すること、現地確認が不要な説明を電話等で行えるか確認することです。顧客へ詳しい病名を伝える必要はありません。延期した訪問を翌日にすべて詰め込むと別の負担になるため、その週の訪問件数や見積の期限も見直します。
社内作業なら必ずできるとは限りません。医学的な意見と本人の希望を踏まえ、休養が必要なら仕事を入れない時間も確保します。調整しても安全に続けられる仕事を用意できない場合は、無理な就業を前提にせず、産業医等と休養や勤務の扱いを相談します。強い眠気やふらつきなどで安全に運転できない状態なら、運転を続けさせず、安全を確保して医師等に相談します。
ここでの運転時間や調整案は架空事例の設定であり、治療を受ける人に共通する制限ではありません。治療内容や体調が変われば、いったん決めた勤務も見直します。
事例3:二人で回す受発注業務。もう一人も残業が増えている
受発注業務を二人で担当する職場で、Cさんが通院のために早退すると、もう一人が締め作業を引き受けます。その同僚も手いっぱいで、交代する第三の担当者はいません。
「事情があるのは分かります。でも、毎回こちらが残ることになっています」
この場面で、理解を得ようとしてCさんの病名や治療の詳細を同僚に説明する前に、仕事の分担を確認します。不満の中心は、医学的な事情が分からないことより、負担が同じ人に集まっていることかもしれません。
この職場では、社長が締め作業を確認したところ、当日必要な出荷確認と、急がない社内集計が一緒になっていました。そこで、出荷確認は当日行い、社内集計は必要性を見直して頻度を減らせるか検討します。取引先と約束している締切は、変更できるか事前に確認します。
集計を翌日に移すだけでは仕事の総量は減りません。翌日の担当業務も含めて負担を確認し、重複する報告をやめる、繁忙日に受ける追加依頼を減らすなど、会社として仕事の量を決め直す必要があります。
本人と説明範囲を確認したうえで、周囲には例えば次のように伝えます。
「Cさんが不在の日は、出荷確認を優先します。社内向けの集計は毎日作る必要があるか、私が確認します。今日のうちに終わらない依頼は、一人で抱えず私に知らせてください。納期の変更や受ける量は会社で判断します」
詳しい医学的情報は適切な担当者が管理し、職場には勤務調整に必要な内容を整理して共有します。病名を広く知らせることを、配慮を受ける条件にしてはいけません。個人情報保護委員会の留意事項
本人への配慮と、同僚の過度な負担を防ぐことは、両方を進める必要があります。厚生労働省の指針も、必要な範囲での情報共有と、周囲に負担がかかりすぎない対応を求めています。治療と就業の両立支援指針
次の通院日までに、休み方と仕事の引き継ぎを決める
相談を受けたら、少なくとも次の通院について、誰が何を確認するかを決めます。以下はAさんの状況を使った会社側の記録例です。公的な様式や医学的な判定表ではありません。
| 項目 | 記録例 |
|---|---|
| 次回の通院 | 10月14日午後。移動時間と受診後の休養の要否を本人が確認 |
| 休暇・勤務の扱い | 社長と給与計算の担当者が利用条件と残日数を確認し、10月9日までに本人へ説明 |
| 当日必要な仕事 | 社長が当日出荷に関する連絡を受ける。社長が不在なら、事前に締切や出荷日を取引先と調整 |
| 後日に回す仕事 | 請求書発行は翌営業日に回せることを確認。翌日の作業量も見直す |
| 体調や予定が変わった場合 | 本人は社長へ連絡。社長は必要な勤務調整を医師等に相談 |
| 見直し | 10月16日にAさんの仕事の積み残しと、社長・他の社員の負担を確認 |
日付は説明のための設定です。体調が悪化した場合などは、決めた見直し日を待たずに対応します。
短時間勤務や無給の休暇を検討する場合は、給与や手当等への影響も事前に説明します。有休が足りないことだけを理由に、直ちに退職を促したり、本人への説明なく勤務条件を変えたりしないようにします。制度の導入や賃金・労働条件の扱いは、就業規則や関係法令を踏まえ、必要に応じて社労士・弁護士等に確認します。
産業医には「通院できるか」に加えて「どう働くか」を相談する
産業医等への相談では、通院予定に加えて、勤務時間、実際の作業、通勤・移動、会社が検討できる調整案を用意すると、必要な配慮を話し合いやすくなります。「代わりがいない」「止めると出荷に影響する」といった制約も、そのまま伝えて構いません。すべてが決まってから相談する必要はありません。
産業医等がいない事業場でも、本人を通じて主治医の意見を得るところから進められます。必要に応じて外部の医師や産業保健総合支援センター等へ相談します。社内の人数だけで解決しようとして、本人の受診を先延ばしにしたり、社長や同僚が際限なく肩代わりしたりする運用を続けないことが大切です。両立支援の進め方と外部機関との連携
佐賀・筑後産業保健事務所では、産業医面談・面接指導を通じて、健康状態と仕事内容を踏まえた医学的な評価・助言を行います。
お問い合わせには、従業員の氏名や詳しい診断内容を記載せず、「定期通院が必要な従業員の勤務調整を相談したい」など、事業場の状況と相談事項の概要をお知らせください。
※本記事は、公的資料を参考に、当事務所が解説・架空事例・記録例を作成したものです。個別の事案についての診断や法的判断を示すものではありません。
参考資料
- 厚生労働省・高知労働局「治療と就業の両立支援が努力義務になります!」(2026年4月1日からの努力義務化と、労働施策総合推進法第27条の3に基づく指針を確認。)
- 厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)(本人との話合い、休暇・勤務制度、医学的意見に基づく配慮、支援プランと周囲への対応を参照。)
- 厚生労働省「治療と仕事の両立支援ナビ:事業主の方へ」(勤務情報提供書で主治医に仕事内容や利用可能な制度を伝え、必要な配慮を相談する手順を参照。)
- 個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(健康情報の利用目的、詳細な医学的情報の取扱い、職場への提供時の加工を参照。)
コラムは産業保健の一般的な考え方を整理したものです。公開時点の情報に基づきますが、法令の解釈や運用は一次資料と専門家の確認が必要です。個別事案の判断には使えません。