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「上司が原因で眠れない」と相談されたら、人事はどう対応する?

上司との関係で眠れない、本人が口止めを希望する、診断書が提出された。3つの架空事例から、相談当日の声かけ、当面の勤務調整、産業医と人事の役割、情報共有の進め方を解説します。

執筆: 佐賀・筑後産業保健事務所公開日:

この記事は約9分で読めます(目安)。

「課長と話すことを考えると、夜、眠れません。明日の面談もつらいです」

従業員からこう相談されたとき、人事担当者は、上司に事情を聴くべきか、先に病院を勧めるべきか、迷うかもしれません。

必要なのは、健康面の支援と、職場で何があったかの確認を並行して進めることです。ハラスメントに当たるか結論が出るまで、体調への対応を待つ必要はありません。

この記事では、相談を受けたその日からの動きを、3つの場面で考えます。事例・会話・対応例は説明のために作成した架空のもので、当事務所の相談実績や特定の企業・従業員を示すものではありません。

事例1:明日、上司と二人きりの面談がある

製造会社の事務担当Aさんが、人事に相談しました。

「会議で何度も強い口調で注意されます。ここ数日は寝つけず、入力ミスも増えました。明日は課長と二人で話す予定です」

この段階で「その課長はパワハラをする人だ」と結論を出したり、「指導だから仕方ない」と片づけたりすると、必要な確認が進みません。まず、周囲に聞かれない場所で話を聴きます。

声かけの例です。

「眠れず、仕事にも影響が出ているのですね。今の体調と、明日の面談で困っていることを確認させてください。仕事の調整と、相談内容の確認を進めましょう」

最初から出来事をすべて時系列で説明してもらう必要はありません。まず確認したいのは、次のようなことです。

  • いつから眠れず、日中の体調や仕事にどんな影響があるか。
  • 今日の勤務や帰宅に支障がないか。運転や機械操作など、安全に関わる仕事が予定されていないか。
  • 今、特につらい場面は何か。本人は当面どのような対応を希望するか。
  • 医療機関への相談状況と、産業医等への相談を希望するか。

体調不良が続き、仕事にも影響しているなら、早めの受診や産業医等への相談につなげます。月1回の産業医訪問日まで待つ前提にはしません。厚生労働省の相談対応の解説でも、心の不調の兆候がある場合は、受診を促すなど早期の対応を求めています。あかるい職場応援団・人事担当者向けQ&A

自分を傷つけるおそれなど、差し迫った危険がある場合は、通常の面談予約より安全確保と救急対応を優先します。

「明日の面談をどうするか」まで決める

Aさんの場合、当面の選択肢として、面談の延期、本人が安心して話せる担当者の同席、業務連絡先の一時的な変更などが考えられます。本人の希望と職場の状況を確認し、必要に応じて産業医等の意見を聴いて決めます。

たとえば、相談の終わりには次のように伝えます。

「明日の面談については、人事の担当者が調整し、本日中にあなたへ連絡します。上司へ何を伝えるかも、先に確認しましょう。体調の相談先と、その後の連絡方法も一緒に決めます」

これは対応例です。「本日中」がすべての相談に共通する期限という意味ではありません。緊急性に合わせて、誰が、いつまでに、何を連絡するかを明確にします。

一時的な調整は、上司の責任を先に確定するものではありません。一方で、相談したAさんだけを別室に移して仕事を与えないなど、本人の負担を増やす対応も避けます。

事例2:「上司には絶対に言わないで」と頼まれた

別の従業員Bさんは、相談の最後にこう話しました。

「話したことが分かれば、もっと働きづらくなります。上司には絶対に言わないでください」

このとき、「誰にも一切話しません」と約束してしまうと、後から必要な調整や確認ができなくなることがあります。かといって、相談直後に上司へ電話をかけ、内容をそのまま伝えるのも適切ではありません。

まず、誰に何が伝わることを心配しているのかを確認します。

「どの情報を、誰に伝えることが心配ですか。仕事を調整したり事情を確認したりするために共有が必要な場合は、目的と範囲を説明します。進め方を一緒に考えましょう」

本人が今は調査を望んでいない場合も、希望を記録したうえで、受診の支援や、本人が利用しやすい連絡窓口の確保など、できる対応を検討します。上司への聴取を進める際は、本人に説明して同意を得るなど、相談者の意向に配慮した手順を取ります。

少人数の部署では、名前を伏せても、出来事の内容から本人が推測されることがあります。匿名性を保証せず、その可能性も含めて説明してください。

本人の意向と安全確保が両立しにくい場合は、担当者一人で「何もしない」「すべて伝える」と決めず、共有する情報を絞って責任者や専門家に相談します。生命・身体の保護のため緊急の対応が必要な場合など、本人の同意なしに情報を扱えるかは、法令上の条件と必要な範囲を確認します。

上司に渡すのは、面談記録の全文ではない

職場で配慮を実施する担当者に必要なのは、たとえば「当面の業務連絡は人事を経由する」「勤務の負担を調整し、指定日に見直す」といった情報です。診断名、服薬、家庭の事情、面談中の発言のすべてを知る必要があるとは限りません。

健康情報は利用目的を明確にし、必要な範囲で扱います。詳しい医学的情報は産業保健スタッフ等が取り扱い、職場へは配慮に必要な形に整理して伝えることが基本です。個人情報保護委員会の留意事項

健康相談の記録と、ハラスメントの事実確認の記録は、目的と閲覧できる人を整理して管理します。部署全員が見られる共有フォルダに置く運用は避けましょう。

事例3:診断書に「職場のストレス」と書かれていた

Cさんから、休養を要する旨と、職場のストレスに関する記載のある診断書が提出されました。人事担当者は「これで上司のハラスメントが確定したということか」と迷っています。

診断書は、休養や仕事上の配慮を検討する重要な資料です。ただし、その記載だけで、具体的な言動の有無や、法的にハラスメントに当たるかまで確定するものではありません。

また、「調査が終わっていないから休養の話も保留」とするのは適切ではありません。医師の意見を踏まえ、必要な健康面の対応を進めます。

進めること 主に確認する内容
産業医等への相談 体調と仕事への影響、休養や勤務上の配慮、見直しの時期
会社の相談窓口等による事実確認 いつ、どこで、どのような言動があったか。双方の説明や関連資料
会社の対応判断 当面の勤務調整、確認結果に応じた職場対応。法的判断が難しい点は弁護士等に相談

産業医等には、「上司が悪いか決めてください」ではなく、次のように相談内容を具体化します。

「本人は電話応対と月末の集計を担当しています。休養や勤務の調整が必要か、現時点で確認できる範囲と、追加で必要な情報を教えてください」

産業医等が就業上の配慮について医学的な意見を述べ、会社が仕事の調整を進める役割分担は、厚生労働省のメンタルヘルス指針でも示されています。労働者の心の健康の保持増進のための指針

事実確認は、本人と上司をいきなり対面させない

「二人で話せば誤解が解ける」と、相談者と上司をその場で呼び合わせる対応は避けます。まずは利害関係に配慮した担当者が、それぞれから話を聴き、必要な資料を確認する進め方が考えられます。

記録では、本人の申告と確認できた事実を区別します。

記録例:「本人は、月曜の会議で上司から強い口調で注意されたと説明。発言の具体的な内容と同席者への確認は未了。翌日の個別面談について、延期を希望」

「問題のある社員」「加害者」といった評価を先に書くと、その後の判断にも影響します。調査のための聴取が体調を悪化させないよう、時間や回数、方法も調整します。

厚生労働省の指針は、双方からの事実確認、関係者のプライバシー保護、相談や確認への協力を理由とした不利益な取扱いの禁止を定めています。また、事実が確認できなかった場合にも、再発防止の取組を求めています。パワーハラスメント防止指針

勤務場所や担当業務を変える場合は、本人の意向、必要性、期間、収入や評価への影響を確認します。「相談した人を異動させて終わり」にせず、配置や賃金、懲戒などの判断が必要な場面では、個別事情を踏まえて法的な確認を行ってください。

産業医への相談前に整理しておくこと

人事側で用意すると相談が進めやすいのは、次の4点です。

  1. 現在の仕事内容、勤務時間、安全に関わる作業の有無。
  2. 本人が仕事上で困っている場面と、希望している配慮。
  3. 会社がすでに行った調整と、まだ決まっていない事項。
  4. 本人に説明した情報共有の範囲、会社側の連絡担当者。

佐賀・筑後産業保健事務所では、産業医面談・面接指導を通じて、健康状態と仕事内容を踏まえた医学的な評価・助言を行います。ハラスメントの事実調査や法的判断は、会社の相談窓口や弁護士等の役割と分けて進めます。

「従業員から相談を受け、当面の勤務をどう調整するか迷っている」という段階でも、お問い合わせからご相談ください。初回のお問い合わせには、従業員の氏名や詳しい診断・相談内容を記載せず、事業場の状況と相談したい事項の概要をお知らせください。

※本記事は、厚生労働省・個人情報保護委員会の公的資料を参考に、当事務所が解説・架空事例・確認項目を作成したものです。個別の事案についての診断や法的判断を示すものではありません。

参考資料

コラムは産業保健の一般的な考え方を整理したものです。公開時点の情報に基づきますが、法令の解釈や運用は一次資料と専門家の確認が必要です。個別事案の判断には使えません。

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