執筆: 佐賀・筑後産業保健事務所公開日:
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「取引先から電話が来ると思うと、夜、眠れません。でも、代わりがいないので仕事には出ます」
こう相談された社長や総務担当者は、休んでもらうべきか、顧客対応だけ外せばよいのか、迷うことがあります。本人が「働けます」と言っていても、今の仕事を安全に続けられるかまでは分かりません。
産業医に相談できるのは、体調と仕事内容を照らし合わせ、休養や受診の必要性、勤務を続ける場合に必要な配慮を医学的に整理することです。 職場の健康障害を防ぐための助言も、産業医の仕事に含まれます。厚生労働省による産業医の職務
この記事では、産業医を選任していない小規模事業場が、産業保健に詳しい外部の医師へ相談する場面も含め、「産業医等」と表記します。以下の事例・会話・対応例は架空のもので、当事務所の相談実績や実在の企業・従業員を示すものではありません。
9人の会社で、顧客対応を交代できる人がいない
従業員9人の印刷会社を想定します。社長は営業と経営を兼務し、事務担当は一人。Aさんは得意先との打合せ、印刷データの確認、納品時の運転を担当しています。他の従業員は印刷・製本の工程に入っており、Aさんと同じ仕事をすぐに引き受けられる人はいません。
Aさんは、ある得意先から繰り返し強い言葉で責められたと話しています。数日前から寝つきが悪く、朝は吐き気があり、印刷データの確認漏れも増えました。
社長は「その得意先への訪問は一時的に外そう」と考えました。しかし、社内にいても代表電話が鳴るたびに身構えてしまうそうです。
ここで産業医等に相談したいのは、次のようなことです。
「訪問を外すだけで十分でしょうか。運転やデータ確認は続けられる状態なのか、休養が必要なのかを相談したいです。交代要員はいませんが、新しい注文を減らすことは検討できます」
こうした職場の情報があると、産業医等は、本人の健康状態に加え、仕事を続ける条件と調整の限界を検討しやすくなります。
面談では、症状と「実際にする仕事」を一緒に確認する
産業医等は、本人が話しやすい環境で、例えば次のような点を確認します。
- 睡眠や日中の状態:いつから眠れないか、日中の眠気や疲れ、食欲、集中力に変化があるか。
- 負担が強くなる場面:特定の相手との電話、訪問前日、メールの確認など、どの場面がつらいか。
- 仕事への影響:運転中の眠気、確認漏れ、作業の遅れなどがないか。安全や品質に関わる作業は何か。
- 受診状況と本人の希望:治療や服薬の状況、休養についての医師の指示、続けたい仕事と難しい仕事は何か。
これらは、会社が従業員を採点するためのチェックリストではありません。必要な項目や詳しさは、医師が本人の状態に応じて判断します。会社には、勤務時間や作業内容、すでに行った調整を伝えてもらいます。
Aさんが「内勤なら大丈夫です」と話しても、内勤に細かな確認や機械操作が含まれるなら、その負荷も考えます。「訪問を外したから働ける」「残業が少ないから軽い」とは一律に判断しません。
不眠などの不調には、顧客対応以外の健康上の事情が関わることもあります。病名や原因を先に決めつけず、必要なら医療機関での診断・治療につなげます。厚生労働省も、ハラスメントに伴う心身の不調がある場合は、速やかな医療機関への相談を勧めています。あかるい職場応援団・Q&A
産業医等との面談の予約を待つために、必要な受診や休養を先延ばしにしないことが大切です。会社も、差し迫った危険への対応や当面の負担軽減を進めます。
「担当を外す」助言を、小さな会社で実行できる形にする
産業医等は、健康上必要な配慮について会社に意見を述べます。会社はその意見を踏まえ、本人の意向と職場の状況を確認し、具体的な勤務の扱いを決めます。厚生労働省のメンタルヘルス指針・5(3)
例えば、勤務継続の可能性を検討する際には、次のように健康面の条件と会社での実行方法をすり合わせます。
表は横にスクロールできます。
| 健康面から検討する配慮 | この会社で検討できる実行方法 |
|---|---|
| 負担となっている相手との直接対応を一時的に避ける | 社長が窓口を担い、電話・メールもAさんに直接回さない。対応時間を確保するため、新規営業の予定を減らす |
| 眠気や集中力低下がある間、安全への影響が大きい作業を避ける | 納品の運転や担当作業を見直す。代わりが確保できなければ、会社が納品方法・日程を先方と調整する |
| 休息を確保できる仕事量にする | 新しい特急注文を絞り、その日の作業を減らす。先送りした仕事をAさんの残業で取り戻す予定にしない |
表は、調整を考えるための独自の例です。実際に必要な制限や期間は、本人の状態と業務によって異なります。勤務を続けられることを前提に、人手不足に合わせて医学的な意見を軽くするものではありません。
会社が「この条件では仕事を用意できない」と感じたら、どの業務が調整できないかを産業医等へ具体的に伝えます。別の方法を検討しても必要な配慮を確保できない場合や、本人の状態から休養が必要な場合は、就業を続ける前提を見直します。休む場合の手続きや賃金の扱いは、会社が就業規則等を確認し、必要に応じて社労士等へ相談します。
また、社長や事務担当へすべてを移せば、別の人の負担が増えます。対応を引き受ける人の仕事量も確認し、必要に応じて受注や予定を減らします。納期や契約に関わる変更は会社が調整し、法的な判断が必要な場面では弁護士等へ相談します。
会社には、勤務調整に必要な情報を伝える
「医師に話したことが全部、社長へ伝わるのでは」と心配し、相談をためらう人もいます。
面談前に、相談の目的、会社へ伝える情報と相手、本人への確認方法を説明します。健康情報は必要な範囲で扱い、法令上の例外を除き、同意が必要な取得・第三者提供には本人の同意を得ます。個人情報保護委員会の留意事項
産業医等が会社へ伝える際は、詳しい医学的情報をそのまま渡すのではなく、仕事の配慮に必要な内容へ整理します。厚生労働省のメンタルヘルス指針・7
会社側が確認したいのは、例えば次の点です。
- 当面、避ける必要がある作業や対応は何か。
- 勤務を続ける場合、どのような条件が必要か。
- いつまでに、何を確認して見直すか。
Aさんの場合も、面談中の発言を全員へ知らせる必要はありません。同僚には、仕事を進めるために必要な担当変更や連絡方法を伝えます。情報を管理する人を決め、全員が見られる共有フォルダへ面談記録を置かない運用にします。
また、産業医等の健康面の評価だけで、相手の言動が法的にカスハラに当たるかまで確定するわけではありません。会社による事実確認と対応は別途進めます。
面談後は、「助言どおりに変わったか」を確認する
例えば、Aさんへの電話は止まっても、社長から「このメールだけ返信しておいて」と毎日依頼されていたら、直接対応を避ける調整が機能していません。
面談の段階で、再確認する時期と、それより前に相談すべき変化を決めておきます。会社は調整を始めた時点で、担当・仕事量・連絡方法が決めたとおりになっているかを確認します。産業医等は、必要に応じた再面談で健康状態と仕事の影響を評価し、助言を見直します。
本人については睡眠や日中の状態、仕事中の困りごとを確認します。会社については、本人への連絡が残っていないか、仕事が夜間へ回っていないか、別の従業員の負担が増えていないかを確認します。
症状が悪化した場合は予定日まで待たず、医療機関や産業医等へ相談します。状態が良くなった場合も、同じ負担へ一度に戻すのではなく、担当範囲や連絡方法を再検討します。
その後は、顧客対応を一人で抱え込まない報告手順や、業務情報の共有も整えます。産業医等は、健康への影響を防ぐ観点から、こうした職場の改善にも助言できます。
産業医がいない会社は、仕事内容のメモから相談を始める
常時50人未満の事業場には、原則として法令上の産業医選任義務はありませんが、外部の医師に産業保健の相談をすることはできます。厚生労働省による選任基準の説明
専任人事がいなくても、社長や総務担当者が次の内容を短く整理すると、相談を始めやすくなります。
- 本人の主な仕事と勤務時間。運転や機械操作の有無。
- 会社が把握している体調の訴えと、仕事で生じている変化。
- すでに行った調整と、それで変わったこと。
- 減らせる仕事と、交代・延期が難しい仕事。
書類をそろえるために相談を遅らせる必要はありません。まず会社担当者から相談し、必要な情報や本人面談の進め方を確認する方法もあります。ただし、本人と面談していない段階で、個人の就業可否まで十分に評価できるとは限りません。
佐賀・筑後産業保健事務所では、50人未満の事業場向けの相談・面談を行っています。経営者・総務担当者からの医学的な相談、従業員本人との面談、就業上の配慮についての助言をご利用いただけます。
ご相談内容に応じて、必要な面談時間、会社側で準備すること、対応範囲と費用をご案内します。個別の医学的相談・面談は有料で、追加相談・再面談は別料金です。
お問い合わせには、従業員や取引先の実名、詳しい診断内容を記載せず、「顧客対応のあと眠れないと相談された。代わりの担当者がおらず、勤務の調整を相談したい」など、職場の状況をお知らせください。
※本記事は、2026年10月10日時点の公的資料を参考に作成した一般的な解説です。個別の診断や就業可否、法的判断は、本人と職場の状況に応じて確認が必要です。
参考資料
- 厚生労働省「産業医について教えて下さい。」(健康相談、作業管理、健康障害の原因調査・再発防止などの産業医の職務と、選任義務の事業場単位を確認。)
- 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(5(3)の産業医等による就業上の配慮への助言、6の職場環境改善・相談対応、7の健康情報の取扱い、9・10の小規模事業場と産業医等の定義を参照。)
- 厚生労働省「あかるい職場応援団:よくある質問」(悩んでいる方向けQ&Aの、ハラスメントにより心身の不調が出た場合の医療機関・産業医への相談を参照。)
- 個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(健康情報の利用目的、原則として同意を要する取得・第三者提供とその例外、必要な範囲での取扱いを確認。)
コラムは産業保健の一般的な考え方を整理したものです。公開時点の情報に基づきますが、法令の解釈や運用は一次資料と専門家の確認が必要です。個別事案の判断には使えません。