執筆: 佐賀・筑後産業保健事務所公開日:
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「移動中、眠くて目を開けているのがつらくなりました。いま駐車場に停めていますが、この後も訪問があります」
社用車を使う従業員から、こんな相談があったとき。「早く寝てください」「コーヒーを飲んで休憩しながら」で、予定どおりの運転を任せてよいのでしょうか。
運転に支障が出る強い眠気がある場合は、まず安全を確保し、原因を調べる受診と、その間の仕事の調整を並行して進めます。 嘱託産業医には、症状だけでなく実際の運転・作業内容を伝え、必要な配慮を相談します。
この記事は、常時50人以上の事業場で、嘱託産業医と連携する経営者・人事総務・現場責任者を主な対象としています。以下の事例・会話・表はすべて架空で、当事務所の実績や実在の相談例ではありません。時間や業務調整の案は、実務上の提案例です。
75人の事業場。訪問できる技術者が限られている
機械設備の販売・保守を行う事業場に、常時75人が働いているとします。訪問担当の技術者は18人、総務は2人で、一人が衛生管理者を兼務。嘱託産業医は選任済みですが、常駐の保健師はいません。
技術者のAさんは、社用車で片道60~90分の顧客先へ出向きます。現地では機械の点検や脚立を使う作業もあります。
Aさんから「運転中の強い眠気は今週二度目で、今日は駐車場に停めて連絡した」と報告がありました。その後の聞き取りでは、本人は7時間ほど寝ているつもりですが、家族からいびきや睡眠中の呼吸について指摘されたこともあると話します。
翌日は、特定機種を扱う資格と経験が必要な訪問が入っています。対応できるのはAさんを含め2人。もう一人には別の予定があり、産業医の次回訪問も9日後です。
この場面では、「運転だけ交代して現地作業を頼む」「産業医が来るまで様子を見る」と決める前に、その日の安全と、受診までの業務を整理します。
最初に決めるのは、その日の運転と帰宅方法
運転中に強い眠気が出たら、安全な場所に停車し、運転を中断します。会社への連絡は停車後に行い、上司も「とりあえず会社まで戻って」と指示しないようにします。
道路交通法第66条は、疲労や病気、薬の影響などで正常な運転が難しくなるおそれがある状態での運転を禁じています。運送会社に限った話ではありません。道路交通法
この事例では、訪問責任者が当日の追加訪問を止め、安全運転管理者と連絡して車両の回収を調整します。総務は本人の状態を確認し、受診先への移動や帰宅について、本人が運転せずに移動できる方法を一緒に考えます。タクシー等の手配・費用の扱いも、権限のある責任者が確認します。
同僚に運転してもらえば、機械操作や高所での作業まで安全になるわけではありません。 強い眠気がある間は、そうした危険を伴う作業も外し、休養・受診につなげます。
呼びかけに反応しない場合は、眠っているだけと決めつけず、119番通報し、通信指令員の指示に従ってください。消防庁・応急手当WEB講習
「寝ているつもり」でも、受診が必要なことがある
日中の強い眠気には、睡眠不足だけでなく、睡眠時無呼吸などの病気が関係することがあります。眠った時間の長さだけで、問題がないとは判断できません。仕事や生活に支障がある眠気は、医療機関への相談が必要です。厚生労働省・昼間の眠気
Aさんのいびきや呼吸についての話は、受診時に伝えたい情報です。ただし、上司が「睡眠時無呼吸だ」と診断する材料にはしません。
総務は早めの受診を勧め、かかりつけ医や睡眠の診療を行う医療機関へ、運転中の支障も伝えて相談するよう案内します。専門外来の予約が先になる場合も、その日まで危険な運転を続ける前提にせず、まず相談できる医療機関や産業医と対応を確認します。
薬の影響も確認が必要です。処方薬だけでなく、市販薬を使っている場合も、本人から医師・薬剤師に運転や機械操作の仕事があることを伝えます。運転するために自己判断で薬をやめたり、量を減らしたりしないでください。 眠気を感じないときでも、薬の使用中に運転を制限される場合があります。PMDA・薬と運転
産業医には「運転できますか」だけで聞かない
診断や治療は受診先の医師が担います。産業医には、健康状態と仕事の危険性を踏まえ、運転、作業、勤務時間にどのような配慮が必要かを相談します。健康相談や作業管理に関する助言は、産業医の職務に含まれます。厚生労働省・産業医の職務
総務・衛生管理者は、訪問責任者と既存の予定表を見ながら、次の情報を短く整理します。
- 起きたこと:本人の申告、眠気が出た時刻・回数、事故やヒヤリとした場面の有無。
- 仕事の条件:一回の運転時間、高速道路の利用、早朝出発、帰社後の残業、現場での機械操作や高所作業。
- すでに行った対応:運転・危険作業の中断、受診の相談状況、翌日の予定変更。
- 会社で可能な調整:運転を伴わない仕事の内容、交代できる人と時間、延期が難しい訪問。
相談は、例えば次のように具体化します。
「運転中の強い眠気が繰り返しあり、当面の運転と危険作業を外しています。受診までの間、座って行う見積作成や資料整理は可能でしょうか。勤務時間の配慮と、再評価に必要な情報も相談したいです」
訪問日前の連絡方法、追加面談、オンライン対応の可否や費用は契約先に確認します。産業医の返答や次回訪問を待つ間も、危険な業務を続けさせず、必要な受診を進めます。
受診先から会社・産業医へ情報を提供してもらう場合は、目的と範囲を本人に説明し、同意を得て連携します。詳しい症状や服薬内容は、本人が医師へ直接伝えられる経路も用意します。上司には、調整に必要な就業上の注意点を中心に共有し、診療情報を部署全員に回覧しません。個人情報保護委員会・健康情報の取扱い
代わりがいないときは、訪問の条件から組み直す
訪問責任者と総務が、翌日から数日分の予定を確認するとします。最初の打合せを15分程度で始めても、顧客との調整や受診のための時間は別に必要です。総務に対応を追加する分は、責任者がほかの事務の締切も調整します。
表は横にスクロールできます。
| 現場で困ること | 検討する調整 | 決める人・確認する条件 |
|---|---|---|
| Aさんしか対応できない機種がある | 運転と現地作業を分けて検討する。ただし、別の人の運転で同行する案は、本人が現地作業を安全に行えると確認できた場合に限る。 | 訪問責任者が医師の意見を踏まえて作業を確認し、同行者の時間・仕事量も確保する。 |
| もう一人の有資格者も予定が埋まっている | その人の訪問を一件移すなど、既存の予定を減らして対応できるか検討する。 | 営業責任者が顧客と調整する。残業や休憩削減による上乗せを前提にしない。 |
| 移動がなくても、本人の安全な作業が確保できない | 無理に現場へ出さず、受診・休養を優先する。代わりの仕事を用意できるかも、健康状態に合わせて検討する。 | 総務と所属長が産業医の意見を確認する。休暇・休業中の賃金等は、規程や個別事情を踏まえ労務の専門家と確認する。 |
| 延期すると顧客設備の安全に影響する | 必要な資格・対応範囲を満たす協力先への依頼や、顧客側での設備停止等を検討する。 | 経営者・営業責任者が契約、安全、費用、顧客との合意を確認する。 |
受診についても「仕事が終わってから行って」で終わらせず、移動と診療に必要な時間を確認し、訪問を入れない枠を確保します。会社が求める意見書の必要性や費用負担も、依頼する前に整理します。
安全に実施できる人員・方法が見つからない仕事は、予定どおり実施できると約束しないことが必要です。顧客への説明と業務量の判断は責任者が引き受け、本人に「あと一件だけ」と頼んで埋め合わせないようにします。
運転再開は、治療開始だけで決めない
仮に受診で睡眠時無呼吸症候群と分かっても、病名だけで一律に運転業務から外し続けると決めるものではありません。症状や治療状況、医師の意見を踏まえて就業上の措置を検討します。国土交通省の運送事業者向け資料でも、この考え方が示されています。国土交通省・睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル
一方で、「治療を始めた」「今日は眠くない」という一つの情報だけで元の運転予定に戻すことも避けます。総務は本人の同意のもとで、主治医から必要な情報を得て産業医に相談し、会社が業務上の運転再開と条件を判断します。運転免許上の取扱いの確認が必要な場合は、主治医や警察の安全運転相談窓口にも相談します。
この事例では、次の点を確認する形が考えられます。
- 医師の評価を踏まえ、運転や現地作業に残る制限があるか。
- 早朝出発と遅い帰宅が重なり、睡眠時間を削る予定になっていないか。
- 通院・治療を続けられる予定か。いつ、誰が再確認するか。
- 眠気が再び出た際、安全に停車して誰へ連絡し、その後をどう手配するか。
例えば、業務上の運転再開が可能と判断された後に、訪問責任者が「遠方の朝一番の訪問と、前日の遅い時間の訪問を同じ人に組まない」よう予定を見直します。件数を減らす必要があれば、営業責任者が予約枠を調整します。睡眠の確保を本人の生活改善だけに任せないためです。
個人の経過は閲覧者を限った記録に残します。衛生委員会等では個人の病名を共有するのではなく、運転を中断したときの連絡先、受診の時間確保、無理な訪問予定がないかといった仕組みを見直します。
佐賀・筑後産業保健事務所では、嘱託産業医契約を通じて、健康状態と仕事内容を踏まえた就業上の配慮について相談を受け付けています。依頼内容と現在の体制を伺い、対応できる範囲・費用をご案内します。
お問い合わせでは、事業場の人数、運転や危険作業の有無、現在の産業医体制、困っている業務調整の概要をお知らせください。初回の連絡に、個人の診断書や検査結果を添える必要はありません。
※資料確認日:2026年10月13日。一般的な情報と架空の対応例をまとめた記事です。個別の診断・治療や就業上の措置は、医師等と確認してください。
参考資料
- 厚生労働省・e-ヘルスネット「昼間の眠気―睡眠不足だけではなく睡眠・覚醒障害にも注意が必要」(睡眠時間だけでは判断できない日中の眠気、閉塞性睡眠時無呼吸、生活・仕事に支障がある場合の受診を参照。)
- e-Gov法令検索「道路交通法」第66条(過労・病気・薬物等により正常な運転ができないおそれがある状態での運転禁止を確認。条文の長文引用や罰則の解説は行わない。)
- 消防庁「応急手当WEB講習―助けを呼ぶ」(反応がない場合の119番通報等を参照。記事では通信指令員の指示に従うよう案内。)
- PMDA「くすりの使用中に車の運転をしていいかどうかはどうしたらわかりますか?」(薬の使用中の運転制限、医師・薬剤師への相談、自己判断での中止・用量調整を避けることを参照。)
- 厚生労働省「産業医について教えて下さい。」(事業場単位の産業医選任と、健康相談・作業管理等の職務を確認。個別の面談方法や契約範囲は保証しない。)
- 個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(健康情報の取得、目的・共有範囲、医学的情報の加工と必要な範囲での取扱いを参照。)
- 国土交通省「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」(令和7年7月)(病名だけで不利な扱いを決めず、専門医・産業医の意見を踏まえて就業上の措置を決める考え方を参照。運送事業者向けの制度や数値基準を一般企業の義務として転用していない。事例・会話・表は独自作成。)
- 警察庁「安全運転相談窓口について」(病気等による運転への支障に関する相談先を確認。会社の業務上の判断と運転免許上の取扱いを区別する。)
コラムは産業保健の一般的な考え方を整理したものです。公開時点の情報に基づきますが、法令の解釈や運用は一次資料と専門家の確認が必要です。個別事案の判断には使えません。