執筆: 佐賀・筑後産業保健事務所公開日:
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「手袋もクリームも用意しているのに、清掃担当者の手荒れが治りません。本人には気をつけてと伝えているのですが……」
こうした相談では、本人のケアに加えて、何に触れ、どの手袋で、どのくらいの時間作業しているかを確かめたいところです。備品はそろっていても、現場の使い方に合っていないことがあります。
以下の事例・会話・対応例はすべて架空で、当事務所の実績や実在の相談例ではありません。時間配分や作業変更は、現場で検討するための実務上の提案です。
8人の清掃会社。手袋を交換する時間が、予定に入っていない
従業員8人の清掃会社を想定します。社長は営業、見積り、備品の購入を兼務し、専任の人事担当者はいません。
Aさんは同僚と2人で、午前に事務所ビル、午後に店舗を回っています。現場によって洗剤が違い、顧客が指定・用意する製品もあります。
Aさんの指先にはひび割れがあり、濡れた布を扱うと痛みます。手袋の内側が湿っても、次の現場への移動が迫ると、そのまま作業を続けていました。交換用の手袋は本社の棚にあります。
社長は「手袋がなくなったら言って」と伝えていましたが、Aさんからは「残りの数ではなく、作業の途中で交換できない」と返ってきました。
同僚に水仕事をすべて任せると、その人の仕事が終わりません。Aさんを事務職へ移す余地もありません。この会社では、備品と一緒に、訪問予定や引き受ける作業の範囲も見直す必要があります。
皮膚科は診断・治療、産業医は仕事との関係を整理する
洗剤などによる刺激で皮膚炎が起こる場合もあれば、ゴム製品に含まれる成分などへのアレルギーが関わる場合もあります。見た目だけで「洗剤アレルギー」「もともと肌が弱い」と決めつけることはできません。日本皮膚科学会・かぶれの原因
手荒れが続く、悪化する、痛みや出血で作業に支障がある場合には、健診や産業医の訪問日を待たず、皮膚科への受診につなげます。皮膚科では、ほかの病気との区別、原因の検討、治療を行います。受診時には、使っている製品の情報や、どの作業のあとに悪くなるかが手がかりになります。日本皮膚科学会・かぶれの治療と予防
産業医に相談するのは、症状と実際の仕事を照らし合わせ、接触を減らす方法や、当面避けたい作業を整理する場面です。 健康相談に加えて、作業環境や作業方法の改善、健康障害の再発防止も産業医の職務に含まれます。厚生労働省・産業医について
会社は医師の意見と本人の状況を踏まえ、仕事の調整を決めて実施します。手袋の具体的な製品選定には、メーカーなどから性能情報を得ることも必要です。
最初に集めるのは、洗剤の名前と実際の作業
社長とAさんが業務時間内に20分ほど取り、まず次の情報を整理する方法があります。20分は情報を集め始めるための目安で、安全確認が完了する時間ではありません。
- 現場ごとの洗剤名とラベル。薄めて使う場合は、実際の濃度や作り方。
- 水や洗剤に触れる作業、その回数、続けて行う時間。
- 手袋のメーカー・製品名。どこで交換し、使用後はどう扱っているか。
- 手袋の内側が湿る場面、痛みが出る作業、本人が受けている医師の指示。
社長は洗剤の納入業者やメーカーから、SDS(安全データシート)を入手します。危険性や取扱方法が書かれた資料です。顧客が用意した洗剤も、製品を確認して資料をそろえます。厚生労働省・ラベルとSDSの確認
例えば「午前の床清掃で使う洗剤B。指定濃度で使用。手袋Cを着けて約40分作業すると内側が湿る」というメモなら、相談先に状況を伝えやすくなります。この40分は架空の作業時間で、安全に使える時間を示すものではありません。
原因を確かめるために、職場で洗剤を本人の皮膚に塗って試すことはしません。検査の要否や方法は、皮膚科へ相談します。日本皮膚科学会・かぶれの検査
「ゴム手袋なら大丈夫」で選ばない
化学物質への保護性能は、手袋の素材名だけでは判断できません。扱う物質、製品の厚さや性能、接触の仕方、使用時間を合わせて確認します。「ニトリル製だから、この現場でも使える」と一律には決められません。厚生労働省・保護具選定マニュアル概要版
社長や保護具の担当者は、洗剤のSDSと作業内容を手袋メーカー等に示し、適した製品、交換時期、使用後の取扱いを確認します。購入時には、必要な枚数と継続費用も見積もります。
一方で、手袋を長時間着けること自体が皮膚への刺激に関わる場合もあります。必要な保護を確保しながら、装着時間や内側の状態を医師と見直します。蒸れるからといって、保護が必要な作業を素手で続ける対応にはしません。日本皮膚科学会・手湿疹診療ガイドライン CQ8
なお、法令上の対象となる皮膚等障害化学物質等を取り扱う業務では、適切な不浸透性の保護具の使用が義務となります。会社が小さいことだけで免除されるものではありません。該当性と必要な措置は、物質・作業に応じて確認します。厚生労働省・保護具の使用義務
SDSを集めて手袋を買うだけで、必要な化学物質管理がすべて完了するわけではありません。リスクアセスメントや管理体制について判断に迷う場合は、化学物質管理の専門家や所轄の労働基準監督署へ確認します。
代わりがいなければ、道具・段取り・受注内容を変える
この会社で検討できる調整例を挙げます。医師から作業制限の意見がある場合は、それを踏まえて実施できる範囲を決めます。
表は横にスクロールできます。
| 現場で困っていること | 社長が決め、担当者と進める対応例 |
|---|---|
| 交換品が本社にしかない | 選定した手袋を必要数、各班が取り出せる場所へ置く。清潔な保管場所、補充担当、交換に必要な時間を決める。 |
| 布を手で絞る作業が多い | 絞り器や柄付きの道具で接触を減らせないか確認する。清掃品質、扱いやすさ、費用、新たな危険を確かめて導入する。 |
| 次の訪問時刻に追われ、必要な手順を省いてしまう | 準備・交換・片付けを含めた所要時間で予定を組み直す。追加依頼をその場で引き受けず、社長が可否を判断する。 |
| 水仕事を減らすと契約の作業が終わらない | 顧客と頻度・範囲・訪問日を協議する。安全や衛生上必要な作業、契約内容を確認し、延期・縮小できるものを選ぶ。 |
最初は、交換品の置き場所と一日の予定を見直すところから始められます。そのうえで、道具の購入や契約条件の変更を検討します。本人に私費で手袋を探し続けてもらう運用にはしません。
調整しても必要な保護や作業制限を守れない場合は、該当作業の中断や受注量の縮小も検討します。同僚へ水仕事を集中させたり、社長が毎晩穴埋めしたりする方法では、別の人の健康を損ねるおそれがあります。
休業や賃金の扱いが関わる場合は、医師への相談と併せて社会保険労務士等にも確認します。
一週間後は、手の状態と「実際に交換できたか」を確認する
変更後は、例えば一週間後に社長とAさんが短く振り返ります。業務上の確認は、紙一枚でも始められます。
変更したこと:適した交換用手袋を各班に用意し、必要な交換時間を訪問予定に入れた。
確認すること:現場で交換できたか。予定を超える追加作業はなかったか。同僚の水仕事や残業が増えていないか。
決める人:社長。次回の確認:○月○日。
手の状態や受診後の指示は本人から個別に確認し、必要に応じて医師へつなぎます。詳しい健康情報を、班全員が見る業務メモへ書き込む必要はありません。
一週間は運用を振り返る例で、治療効果を判定する期間ではありません。症状が悪化したり、必要な対策を実施できなかったりしたら、確認日を待たずに対応を見直します。
継続できる方法が見えたら、現場ごとの洗剤・保護具・作業手順を一覧にします。顧客から洗剤の変更を求められたときも、その場で使い始めず、適合性を確認する担当者を決めておきます。
産業医には、仕事の情報と一緒に相談を
相談時に「手荒れがあります」だけでなく、洗剤名、手袋の製品名、作業時間、代替が難しい仕事が分かると、職場で何を変えられるかを検討しやすくなります。
佐賀・筑後産業保健事務所では、50人未満の事業場向けの相談・面談を受け付けています。個別の医学的助言・従業員面談は有料です。皮膚科での診断・治療につなぎながら、仕事上の配慮を検討します。対応範囲と料金は、ご依頼前に確認いただけます。
お問い合わせでは、「8人の清掃会社」「現場ごとに洗剤が違う」「水仕事を代われる人がいない」など、仕事上の困り事をお知らせください。最初の連絡に、従業員の実名や患部の写真を添える必要はありません。
※資料確認日:2026年10月12日。一般的な情報と架空の対応例をまとめた記事です。個別の診断・治療や就業上の判断、保護具の選定は、医師や関係する専門家にご相談ください。
参考資料
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A・かぶれ Q10」(洗剤などによる刺激性接触皮膚炎、ゴム製品中の成分によるアレルギー性接触皮膚炎を参照。)
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A・かぶれ Q19」(ほかの皮膚疾患との区別、原因となる刺激物・アレルゲンの確認、仕事と症状の経過を把握する必要性を参照。)
- 日本皮膚科学会「皮膚科Q&A・かぶれ Q7」(パッチテストに必要な条件と、専門的な知識を持つ皮膚科医による検査を参照。)
- 日本皮膚科学会「手湿疹診療ガイドライン」(2018年)(CQ8、雑誌384〜385ページ。水仕事での保護と、手袋の長時間装着による刺激、職場で接触する物質に応じた手袋選択を参照。)
- 厚生労働省「皮膚障害等防止用保護具の選定マニュアル 概要版(第2版)」(2026年3月)(対象物質に応じた保護具使用義務、作業内容・時間と製品性能に基づく手袋選定を参照。)
- 厚生労働省「ラベルでアクション」(ラベルとSDSの確認、供給者等からのSDS入手、リスクアセスメントと対策を参照。)
- 厚生労働省「産業医について」(産業医の職務である作業環境管理、作業管理、健康管理、健康障害の原因調査と再発防止を参照。)
コラムは産業保健の一般的な考え方を整理したものです。公開時点の情報に基づきますが、法令の解釈や運用は一次資料と専門家の確認が必要です。個別事案の判断には使えません。