執筆: 佐賀・筑後産業保健事務所公開日:
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「インフルエンザと診断されました。でも、今日の訪問だけは代わりがいないので行きます」
従業員からこう連絡が来たとき、小さな会社ほど判断に困ります。休んでもらう必要性は分かっていても、当日の予約があり、社長も別の仕事で動いているからです。
この場面で必要なのは、本人の療養を確保しながら、会社が引き受ける仕事の量と予定を組み直すことです。 従業員が自主的に出勤すると言っても、その申し出だけで安全を判断しないようにします。
この記事は、一般の事務所や訪問サービスの会社などにおける、季節性インフルエンザへの対応を扱います。医療・介護施設等では、施設や業務に応じた感染対策を別途確認してください。事例・会話・記録例は説明のための架空のもので、当事務所の相談実績や実在する企業・従業員を示すものではありません。
8人の設備会社で、訪問担当が一人休んだら
従業員8人の設備会社を想定します。社長は営業と見積りを兼務し、事務担当は一人。特定の設備修理を単独で担当できるのはAさんとBさんの二人です。
Aさんがインフルエンザで欠勤し、午前中の訪問予定が3件残りました。Bさんは別の現場に入っており、すべてを引き受けると夜まで作業が続きます。
社長は、Aさんに「午前中だけ」、Bさんに「全部お願い」と頼む前に、予約台帳と契約内容を確認します。例えば、次のように対応を分けます。
表は横にスクロールできます。
| 当日の仕事 | この会社で検討する対応 | 判断・連絡する人 |
|---|---|---|
| 日程を動かせる定期点検 | 契約上の期限を確認し、顧客に変更を相談。法定期限を過ぎる延期はしない | 社長が判断し、事務担当が連絡 |
| 見積り前の現地確認 | 当日の訪問を変更し、必要な資料を先に受け取れるか相談 | 社長 |
| 安全上の緊急性が疑われる故障 | 使用継続の可否を判断できる専門担当につなぎ、メーカー・協力会社の対応可否を確認 | 社長が窓口となり、専門担当が安全面を確認 |
| 新しく入る予約 | 受けられる日を案内し、通常どおりの即日対応を約束しない | 事務担当。判断に迷う案件は社長へ |
これは業務を整理するための独自の例であり、設備の安全確認手順ではありません。資格や経験が必要な作業を、空いているという理由だけで別の人に任せないことが前提です。
外注する場合も、相手の資格・対応範囲・費用・到着までの時間、契約上必要な顧客の承諾を確認します。応援を確保できなければ、対応できない範囲を顧客に説明し、安全確保のための専門窓口につなぎます。
調整には社長と事務担当の時間もかかります。その日は急がない見積り作成や社内集計を後ろへ動かすなど、連絡のための時間を確保します。欠勤者の仕事に加え、調整の仕事まで残った人へ積み上げないようにします。
休む人への連絡は、一人にまとめる
社長、同僚、事務担当がそれぞれ電話をすると、本人は休んでいる間も仕事から離れられません。最初に会社側の連絡窓口と、次に体調を確認する目安を決めます。受診や睡眠を妨げない方法を本人と相談します。
声かけは、例えば次のようにします。
「今日の訪問先への連絡は会社で進めます。まずは療養してください。医師から休養について言われたことと、次に連絡できそうな時期を、無理のない範囲で教えてください」
厚生労働省も、症状があるときは無理な出勤を避け、休養を取るよう案内しています。高熱が続く、息苦しいなど、具合が悪いときは早めの受診が必要です。厚生労働省のQ&A・Q15
仕事の確認は、まず会社にある予約台帳や作業記録から行います。鍵や書類を渡すためだけに来社させたり、引継ぎ資料を休養中に完成させるよう求めたりしない運用を考えます。「家ならできるでしょう」と、必要な休養を在宅勤務に置き換えることも避けます。
健康情報は、何のために確認するかを本人へ説明し、必要な範囲で扱います。診断内容や検査結果の画像を、全員が見る連絡グループへ載せる運用にはしません。個人情報保護委員会の留意事項
同僚には、担当変更や感染予防のために必要な情報を伝えます。顧客への日程変更の説明も、本人の詳しい病状を伝えずに行えるか検討します。
「熱が下がった」「5日たった」だけで出勤を決めない
インフルエンザは、解熱後もウイルスを排出することがあります。また、学校の出席停止に用いる「発症後5日かつ解熱後2日」という基準は、すべての従業員にそのまま適用される法定の休業日数ではありません。厚生労働省のQ&A・Q18、長野労働局の解説・132ページ
出勤再開を検討するときは、感染を広げるおそれへの対応と、本人が担当する仕事を安全に行える状態かを、両方確認します。
- いつ症状が始まり、発熱やその後の症状がどう変わったか。
- 医師から、外出・休養・仕事について指示があるか。
- 再開予定の仕事に、運転、現場作業、近距離での接客などが含まれるか。
これらは会社が医学的な判定をするための点数表ではありません。経過と業務内容を整理し、社内のルールも確認したうえで、迷う場合は主治医や相談できる産業医等に確認するための項目です。ルールに書かれた日数を満たしても、体調が回復していなければ、そのまま通常勤務へ戻す判断はしません。
Aさんの場合、出勤できる状態になっても、延期した訪問を初日にすべて詰め込まない予定を組みます。社長が新規予約の枠も見直し、欠勤中の遅れを本人の残業だけで取り戻す形にしないことが大切です。
陰性証明を、出勤再開の条件にしない
厚生労働省は、欠勤時のり患・陽性証明書、復帰時の治癒・陰性証明書について、職場が提出を求めることは望ましくなく、提出は不要としています。陰性の証明の難しさや、医療機関への負担などが理由です。厚生労働省のQ&A・Q19、Q20
会社が知りたいことが「いつから、どの仕事を任せられるか」であれば、全員に証明書を取りに行ってもらう運用を見直します。
例えば、本人から確認した経過、医師の指示、再開する担当業務、再確認する時期を、担当者だけが扱う記録にまとめます。症状が長引くなど個別の事情で医学的な意見が必要なら、確認したい業務上の事項を絞って相談します。これは、感染していないことを証明する書類を一律に求めることとは目的が異なります。
休んだ日の賃金も、一律に「無給」で処理しない
本人が病気で働けず休む場合と、働ける状態でも会社の判断で休ませる場合では、賃金の扱いが異なることがあります。
季節性インフルエンザは、感染症法上の就業制限の対象ではありません。長野労働局は、会社の判断で休業を命じる場合には、休業手当が必要となるケースが一般的と説明しています。長野労働局「労働条件ハンドブック」132ページ・Q6
社長や給与担当者は、欠勤・休業の経緯と就業規則等を確認し、年次有給休暇を使いたいかなど、本人の希望も確認します。本人への確認なく、感染症による休みを自動的に年休扱いにする運用は避けます。
判断が難しければ、社労士や労働基準監督署等に確認します。「休むように言ったが、給与の扱いは締め日まで説明しない」という状態を減らし、確認中の事項も含めて本人へ伝えます。
次の欠勤に備えるなら、まず連絡先と予約の減らし方を決める
すぐに人を採用できなくても、社長と事務担当で、欠勤連絡を受ける人、日程変更を決める人、外部の専門窓口を一枚にまとめることは始められます。
落ち着いた後は、「Aさんしか知らない予約や鍵の保管場所がなかったか」「延期した仕事と新規予約が重なり、誰かの残業が増えなかったか」を確認します。記録の共有、予約枠、協力先との契約など、継続して整えることは担当と期限を決めます。
佐賀・筑後産業保健事務所では、50人未満の事業場向けの相談・面談などを通じて、健康状態と仕事内容を踏まえた就業上の配慮について助言します。対応範囲と費用は、ご相談内容を確認してご案内します。
お問い合わせには、従業員の氏名や詳しい診断内容を記載せず、「訪問担当が二人で、欠勤時の勤務調整や出勤再開の考え方を相談したい」など、職場の状況をお知らせください。
※本記事は、公的資料を参考に、当事務所が解説・架空事例・記録例を作成したものです。個別の診断や法的判断を示すものではありません。
参考資料
- 厚生労働省「令和8年度冬季 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」(令和8年9月30日版)(Q15の休養等、Q18のインフルエンザの感染性・学校の出席停止、Q19・Q20の職場に提出する証明書の扱いを参照。)
- 長野労働局「労働条件ハンドブック」(2026年2月版)労働相談Q&A(132ページ「賃金に関する相談」Q6:季節性インフルエンザと法令上の就業制限、使用者の判断で休業を命じる場合の休業手当を確認。)
- 個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(第3の1・3・4:健康情報の利用目的、取得・共有の範囲、安全管理の考え方を参照。)
コラムは産業保健の一般的な考え方を整理したものです。公開時点の情報に基づきますが、法令の解釈や運用は一次資料と専門家の確認が必要です。個別事案の判断には使えません。