執筆: 佐賀・筑後産業保健事務所公開日:
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ストレスチェックの集団分析で、ある部署の仕事の負担が高いと分かった。衛生委員会でも報告したが、「人を増やす余裕がない」で話が止まっている――。
そんなときは、どの場面で負担が生じ、何を変えれば減らせるかを、現場と産業医で具体化することから始めます。 増員が必要な場合もありますが、確認の重複や判断待ちなど、先に見直せる仕事がないかを調べます。
この記事は、常時50人以上の事業場で、嘱託産業医と連携する経営者・人事総務・現場責任者を主な対象としています。以下の事例・会話・表はすべて架空で、当事務所の実績や実在の相談例ではありません。時間や手順は、実務上の提案例です。
70人の事業場。受付・手配課の負担が高いと分かった
設備保守会社の一つの事業場に、常時70人が働いているとします。総務は2人で、そのうち一人が衛生管理者を兼務。嘱託産業医は選任済みですが、常駐の保健師はいません。
12人の受付・手配課では、修理の受付、作業員の手配、顧客への進捗連絡を担当しています。11人が回答したストレスチェックの集団分析で、仕事の量的負担が高く、上司の支援が低い傾向が示されました。
課長は「電話が多いので、増員しないと無理です」と話します。一方、経営者は「すぐには採用できない。まず研修を受けてもらおう」と考えています。
ここで総務が確認したいのは、電話の件数だけではありません。例えば、次のような仕事の流れがないかを調べます。
- 修理の進捗が共有されず、顧客から電話が来るたびに作業員を探している。
- 営業と現場から、それぞれ「こちらを先に」と依頼され、受付担当が優先順位を決めかねている。
- 同じ案件について、管理表・日報・会議資料に似た内容を転記している。
こうした状況があれば、電話対応の研修に加えて、情報の渡し方や仕事の決め方を見直す必要があります。
集団分析は、仕事の条件を調べる入口にする
集団分析だけで「課長が原因」「この部署には病気の人が多い」と結論づけることはできません。結果を、仕事内容、勤務時間、日常の困りごとと合わせて検討します。厚生労働省・こころの耳「職場環境改善ツール」
総務は、実施者や分析を担当した機関に、指標の意味、比較対象、回答人数、前年と比較できる条件かを確認します。集計した数字から言えることと、現場で確かめる必要があることを分けます。
個人のストレスチェック結果は、本人の同意なく事業者へ提供できません。部署の課題を調べるために、上司が個人の結果票を集めたり、「高ストレスと出た人は手を挙げて」と求めたりする進め方にはしません。厚生労働省・ストレスチェック結果の取扱い
また、所属人数が多くても、回答者が少なかったり、年齢・職種などで細かく分けたりすると、誰の結果か推測できることがあります。集団のまとめ方や社内で見せる資料の範囲は実施者と確認し、必要なら分析単位を見直します。人数だけで匿名性が保証されるわけではありません。厚生労働省・集団分析と個人の識別に関する通達
個人の回答を聞かず、「仕事で困る場面」を聴く
この事業場では、総務が課長と相談し、業務時間内に短い意見交換の時間を設けることにしました。
「集団分析をきっかけに、仕事の進め方を見直したいと考えています。個人の回答や病名を聞く場ではありません。最近、仕事が止まった場面や、判断に困った場面を教えてください」
受付を止めて全員が集まれなければ、既存の引継ぎ時間を使って分けて聴く方法もあります。参加できなかった人にも意見を出す機会を設けます。個別の聞き取りに分ければ総務の時間も必要になるため、経営者がほかの事務の締切を調整します。
上司の前で話しにくい場合は、総務等への個別の相談経路も示します。「無記名なら誰か分からない」とは約束せず、意見をまとめる際は、本人が推測される具体的な記述や健康情報の扱いに注意します。個人情報保護委員会・健康情報の取扱い
課長自身にも、支援できなかった事情を尋ねます。例えば、課長に優先順位を変更する権限がなく、営業との調整を頼まれても答えられない状態なら、課長だけに改善を任せても進みません。
この聞き取りで、進捗連絡の担当が決まっていないことと、複数の部署から急ぎの依頼が入ることが課題として挙がった、とします。
増員を待つ間に、一つの仕事の流れを変える
最初から新しいシステムや大規模な会議を設ける必要はありません。従業員の意見を踏まえ、実行できる改善を選び、担当と確認日を決めます。参加型職場環境改善の手引き
この事業場で検討する案を、次のように整理できます。
表は横にスクロールできます。
| 困っている場面 | 変更する案 | 判断・実行する人 |
|---|---|---|
| 進捗を探す電話が何度も発生する | 既存の案件票に「次に連絡する担当・予定時刻」を残す。別の報告票は増やさない。 | 現場責任者と受付課長が、記入と引継ぎの時点を決める。 |
| 営業と現場の依頼がぶつかる | 安全・契約上の緊急性を含む優先基準を決め、判断が割れた案件を受付担当だけで抱えない。 | 拠点長が基準と判断担当・不在時の代行者を決める。 |
| 同じ情報を何度も転記する | 利用目的を確認し、社内向けの重複報告を統合する。 | 報告を求める管理職が廃止・統合を承認する。 |
まずは「次の連絡担当を案件票に残す」案を一つ選ぶとします。受付課長と現場責任者が既存の打合せのうち20分を使って記入方法を決め、翌週に使えたかを確認します。20分はこの事例での準備枠で、運用に必要な時間は別に確保します。
記入を一つ増やすなら、今ある口頭報告や転記のうち何を減らすかも決めます。作業員に記録だけ追加し、その分を帰社後の残業にする方法では、負担が移るだけです。
顧客との契約、安全上の緊急対応、法令上必要な記録・点検は省略しません。受付時間や対応期限を変える場合も、現場だけで決めず、権限のある責任者が契約条件等を確認して調整します。
産業医には、結果と実際の仕事をセットで相談する
総務・衛生管理者は、会社が適切に提供を受けた集団分析結果に、仕事の流れ、労働時間、現場の意見、試したい変更案を添えて嘱託産業医に相談します。個人の結果票を集め直す必要はありません。
「受付課の量的負担と支援の低さが課題になっています。聞き取りでは、進捗確認の繰り返しと優先順位の判断待ちが挙がりました。まず連絡担当を明確にする案を考えていますが、ほかに確認すべき負担や、見直す指標はありますか」
産業医は健康への影響や職場のストレス要因を評価し、改善の方向を助言します。業務の優先順位、受注条件、人員・予算を決めて実施するのは会社です。産業医の意見を、誰が何を変更するかまで具体化します。厚生労働省・心の健康の保持増進のための指針
ストレスチェックの実施者が別の機関なら、産業医との役割分担や資料の受け渡し方法も確認します。訪問日前の相談、追加の打合せ、結果説明や職場環境改善の支援が契約に含まれるか、費用が生じるかは契約先に確認してください。
部署全体の改善を進めていても、不眠などの不調がある人の対応は先送りにしません。必要な健康相談・受診につなぎ、高ストレスで面接指導が必要と判断された人から申出があれば、会社は医師による面接指導を実施します。個別対応を改善会議で代用することはできません。厚生労働省・ストレスチェックと面接指導
次のストレスチェックを待たず、実施できたかを確かめる
翌週には、課長と現場責任者が、連絡担当を案件票に残せたか、進捗を探す電話が減ったか、記入の負担が増えていないかを確認します。総務は既存の案件記録を使って要点をまとめ、職場に結果を返します。
記録例:連絡担当の記入は始められたが、担当者が休みの日の引継ぎが決まっていなかった。課長と現場責任者が代行者の決め方を修正し、翌週に再確認する。残業や休憩への影響も確認する。
改善案を採用しなかった場合も、理由と次に検討することを伝えます。意見を集めただけで終わらせないためです。
衛生委員会では、個人の病名や誰が何を回答したかではなく、取り組んだ変更、残る負担、経営判断が必要な課題を扱います。集団分析とそれに基づく職場環境改善は、事業者の努力義務として位置づけられています。厚生労働省・集団分析と職場環境改善
小さな変更で十分とは限りません。仕事を整理しても過重な負担が残るなら、受注量やサービス範囲の見直し、予算を伴う人員確保・外注などを経営者が検討します。現場や総務に「工夫でもう少し頑張って」と任せ続けないことが必要です。
佐賀・筑後産業保健事務所では、嘱託産業医契約を通じて、職場の健康課題と必要な対応を整理します。ストレスチェック後の相談や職場環境改善についても、現在の実施体制と依頼内容を伺い、対応できる範囲・費用をご案内します。
お問い合わせでは、事業場の人数、産業医・ストレスチェックの実施体制、「集団分析後の改善が進まない」などの相談概要をお知らせください。初回の連絡に、個人の結果票や病名を添える必要はありません。
※資料確認日:2026年10月12日。一般的な情報と架空の対応例をまとめた記事です。個別の健康状態や就業上の措置は、医師等と確認してください。
参考資料
- 厚生労働省・こころの耳「職場環境改善ツール」(集団分析と業務・労働時間等を合わせた評価、仕事の進め方や役割の見直しを参照。掲載ツールや図表は転載していない。)
- 厚生労働省「ストレスチェックって な~に?」(個人結果の提供に必要な本人同意、面接指導、不利益取扱いの防止、集団分析と職場環境改善の位置づけを参照。)
- 厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」(令和8年6月30日)(集団分析で個人を識別できない方法を用いる従来の解釈と、その明文化を確認。改正省令の施行日は2027年4月1日であり、確認日現在は施行前。)
- いきいき職場づくりのための参加型職場環境改善の手引き(平成27年度研究班)(従業員の参加、小さく実行できる改善、担当・期限の設定と振り返りの考え方を参照。事例・会話・表・記録例は独自に作成。)
- 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(衛生委員会の活用、産業保健スタッフによる職場環境の評価と改善支援、個別の不調への対応を参照。)
- 個人情報保護委員会「雇用管理分野における個人情報のうち健康情報を取り扱うに当たっての留意事項」(健康情報の利用目的、必要な範囲での取扱い、閲覧者の制限と医学的情報の管理を参照。)
コラムは産業保健の一般的な考え方を整理したものです。公開時点の情報に基づきますが、法令の解釈や運用は一次資料と専門家の確認が必要です。個別事案の判断には使えません。